最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)219号 判決 1952年7月22日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人西ヶ谷徹の上告趣意及び同長野潔の上告趣意第一点について。
収賄罪は公務員が職務に関して賄賂を収受するによって成立し、これにより公務員が不正の行為をなし又は相当の行為をなさないことを要件とするものではない。故に事実上不正処分の可能性なき場合においても収賄罪の成立を妨げないとすること従来の判例とするところである。(昭和一一年(れ)五六二号同年五月一四日大審院第二刑事部判決)。従って刑法一九七条一項後段の請託とは公務員に対して一定の職務行為を行うことを依頼することであって、その依頼が不正な職務行為の依頼であると、正当な職務行為の依頼であるとに関係なく、苟も公務員が請託を受けて賄賂を収受した事実ある以上同条項後段の収賄罪は成立し、賄賂の収受が事前なると事後なるとは犯罪の成否に影響なきことは従来判例の趣旨に徴して明らかである。所論は収賄罪の被害法益は公務員の職務の公正であるとの前提に立ち、請託とは公務員の職務の公正を害するおそれある不法の依頼要求であって、正当な職務行為の依頼を受けて賄賂を収受するも何等職務の公正を害する危険がないから請託というを得ず、従って同条項後段の収賄罪を構成せずと主張するけれども、公務員の職務の公正を維持するためには正当な職務行為に対しても賄賂による買収を許すことを得ないことは明らかである。論旨に援用する判例は現行刑法一九七条改正以前のものであって、本件に適切でないから論旨は採用することができない。なお論旨は原判決の判断遺脱を主張しているけれども、これは刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
弁護人長野潔の上告趣意第二点について。
論旨は、上告人が原審において主張せず、原審において判断されなかった事項について第一審判決の瑕疵を主張するものであるのみならず、判例違反に名をかる訴訟違反の主張であっていずれの点よりするも上告適法の理由とならない。
同第三点及び弁護人大竹武七郎の上告趣意第二点について。
論旨はいずれも量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
弁護人大竹武七郎の上告趣意第一点について。
論旨は判例違反、法令違反を主張するけれども実質は事実誤認の主張であって上告適法の理由とならない。のみならず、第一審判決の認定事実は挙示の証拠を綜合して優にこれを認め得るところであるから、論旨は採用することができない。
また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)